院長ブログ:当事者のペース
発達障害で治療やリハビリの経験をお持ちの、
当事者の方が、相談の事業を立ち上げられました。
先日その方が、当院にいらして、事業の説明をしてくださいました。
僕はその話を聞いて、「当事者の力」として、とても納得するものがありました。
僕は昔、少しだけ「当事者」の立場を少し経験したことがあります。
階段を踏み外して足をけがし、しばらく思うように歩けなくなったことがありました。
その時に、たった一段の段差が怖いことや、人の歩く速さについていけないこと、
「大丈夫ですか」と声をかけてもらえることが、こんなにもありがたいこと、
何より、元気な頃には見えていなかった不安な世界があることに気づきました。
もちろん、僕の一時的なけがと、発達障害や精神疾患を抱えながら生活される方の状況には、異なりがあるのは承知しています。
それでも、「当事者にしか分からないことがある」ということを、
自分自身の体験として少しだけ実感する機会になりました。
だから、当事者が相談の事業を始められたことに、大きな意味を感じます。
医療では診断をつけること。治療を考えることはできます。
僕はそれらを精一杯尽くしたいと考えています。
一方で、医療だけでは、届けられない支え方もあります。
例えば、治療には目標があり、それに向かって良くなってほしいという思いがあります。
だからこそ、次の一歩を提案していきます。
しかし、人にはそれぞれのペースがあります。
「今日は話を聞いてほしいだけ。」
「まだ前に進む準備ができていない。」
「同じ悩みを知っている人の話を聞いてみたい。」
そんな「ゆっくりを望む気持ち」も、とても大切なのに、外来診療には時間の制約があって、少なくとも当院の診療では、十分に守ることができません。
そのような、当事者だからこそ分かって気づける“相談”のあり方(ペース)が、
実は多くの人に合いやすいように思います。
専門家が学問を通して学んだ知識技術と、当事者が人生を通して学んだ機微、
この二つで、うまくやっていけると、支援はもっと豊かになるでしょう。
当院でも、その方の事業のパンフレットや資料を待合室に置いています。
ご興味のある方は、どうぞご自由にご覧ください。